異音

小説書いていきます。

僕の中に棲む悪魔 かりんの話

かりんは僕の幼馴染みです。物心ついたときから一緒にいました。美咲とは小学校に入ってから知り合ったので、彼女と一緒にいる時間の方が長いのです。
彼女はとても気が強くて優しい女の子です。学校では少し目立つ女子達の輪の中にいながらも、クラスに馴染めていない子と仲良くなろうとしている彼女の姿を目にすることが時折ありました。
勿論、男子からの人気もそこそこある方でしたが、誰かと付き合っているという噂は聞きませんでしたし、本人からもそんな雰囲気は感じませんでした。
彼女は、楽しいときは勿論、辛いときや悲しいときも、いつも僕の傍にいてくれました。先日、家に訪ねてこられた警察の方から疑われたときも庇ってくれましたし、今も落ち込んで口も開かない僕を慰めようと必死で優しい声をかけ続けてくれています。
「ひいくん、ちゃんとしたもの食べてないでしょう?私がご飯作るから一緒に食べよう」
僕は口を開くことも頷くこともせずに一点を見つめ続けています。
料理ができない僕の為に今まで椿が食事を用意してくれていました。椿がこの世を去ってから暫く何も口にしていませんでしたが、かりんに言われて漸く食事を摂るようになったのです。それでも、お菓子やカップラーメン等を少し口にするだけなので、彼女は心配してこんなことを言ってくれているのでしょう。
「‥‥ひいくんが元気ないと、きっとお姉ちゃんも悲しむよ‥‥」
彼女はそう呟き、少し泣きそうになりました。
しかし、今の僕には慰める為に頭を撫でる気力も微笑みながら優しい言葉をかける気力もありません。
「ひいくん返事してよ‥‥」
とうとうかりんは泣き出してしまいましたが、彼女の泣き顔を見ても僕の心も体も動くことはありませんでした。
ほぼ無音のリビングに、暫く彼女が鼻を啜る音だけが響きました。
「ひいくん、お姉ちゃんがいなくなって悲しむのはわかるよ。私も一緒だよ。でも、私がいるから‥‥ひいくんは一人じゃないから‥‥」
かりんが泣きながらそう言い終えると同時に、僕の体が何かに引っ張られて動く感覚がありました。
その瞬間、意識が途絶えました。

お知らせ

昨日のお知らせで伝え忘れていたことがあったので…

この話は更新したあとにも関わらず、自分で納得できない箇所は勝手に修正して更新し直しております。
読んでくださっているときに「あれ?前のと食い違ってない?」となることがあるかもしれません。
そのときは前回の話を修正して、新しい話を更新しているときだと思います。
読み直していただければ「あ、こう変えたのか」と思われるのではないかと。

読み直すなんて面倒だと思うので、食い違いが出るような修正は極力しないようにします。
ですが、椿の話の一話目を既に修正させていただきました。椿の誕生日は半年前だと記していましたが、一週間前に修正しております。
私の妄想内での記憶違いでした。

本当に食い違いがあった場合は、単にこちらのミスですので御指摘ください。

お知らせ

「椿の話」も終了して、きりがいいのでここで再びお知らせをさせていただきます。

この話のタイトルが決定しました。

「僕の中に棲む悪魔」

というタイトルにします。

異論は認めませんと言いたいところですが、認めます。
自分のネーミングに自信が持てないので。

そのタイトルはないわーと思う方がいらっしゃいましたら是非コメントしてください。
即変更します。

僕の中に棲む悪魔 椿の話(番外編)

私は慕ってくれるかりんちゃんや大切にしてくれるひいくんが大好きだった。勿論、あの子のことも大好きだったのだけれど、あの子への気持ちだけ少し違ったの。
あの子とひいくんは真逆なようでとてもよく似ていて、自分が庇っているのがあの子だと気付くのにはいつも少し時間がかかった。
あの子はとても強くて両親からの暴力に対しては一度も泣かなかった。でも、暴言に対しては時折怒っているような傷付いているような表情をしていたわ。そんな表情に人間らしさを感じて、愛しく思えたの。
両親がこの世を去って虐待がなくなると、月日が経つごとにあの子が自分の世界から出てくることは減っていった。あの子に会えない日々はとても寂しかったから、たまに出てきてくれると浮かれてしまう程に嬉しかったの。きっと私は弟に抱いてはいけない感情を抱いてしまっていたのね。
ひいくんの友達の名前は美咲ちゃんだったかしら。その子が亡くなった日、あの子がすっきりした顔をして帰って来たの。外に出ていたことを知らなかったから驚いきながらも疑問を抱いたのだけれど、そのあとに美咲ちゃんの死を知って「ああ、あの子は人を殺すために外へ出たのか」と思ったわ。とても悲しかった。
今日、出てきてくれてとても嬉しいわ。だって私の誕生日だもの。でも浮かれてこの気持ちを悟られてはいけない。そう思っていたら、ひいくんの話ばかりしてしまったみたいね。
「あ、この服ひいくんに選んでもらったのよ。可愛いでしょう」
そう言った瞬間、腹部に激痛が走った。
‥‥え?な‥‥に?苦しくて息が出来ない。助けて。
そう思っていると、あの子が台所の方から戻って来るのが見えた。手には包丁を持っている。口を開いた瞬間、胸部にさっきとは違う痛みが走った。
刺された‥‥?私、殺されるの?待って。貴方にまだ伝えたいことがあるの。聞きたいことも沢山あるの。まだ貴方と話したい。一緒に居たい。‥‥どうしたの?そんな辛い顔しないで。せめて一言だけ‥‥
「はぁっ‥‥あ‥‥‥‥愛‥‥してる」
その瞬間、意識が遠のいた。
ねえ、ちゃんと伝わった?

僕の中に棲む悪魔 椿の話

俺は小学校低学年の頃、両親が事故死するまで虐待を受けてたんだよ。
椿は頭も外見も良く、両親にとって自慢の娘だったんだろうな。両親は椿だけにはとても優しかった。
そして、柊は両親の機嫌が悪いことを察するとすぐにどこかへ消えていた為、両親の怒りは全て俺へと向けられてたよ。俺は柊が初めて逃げた日から、あいつをへたれだと罵り、両親からの暴力に泣きもせずに耐えていた。
そんな俺に対し、椿だけが優しかったんだ。
見て見ぬふりをして、いい子であり続ければ椿は両親から可愛がられるというのに、俺を庇う為にわざと両親に牙を向けたんだぜ。笑っちまうよな。「私の大事な弟に手を出すな」と怒鳴っていた椿の背中は逞しく温かかった。
「あら、珍しいわね。何か食べる?」
俺がたまに出ていくとそう言って嬉しそうに微笑みかけてきたよ。その表情を見る度に綺麗になっているように感じた。
俺は滅多に外に出ることはないから、柊と椿の二人で出掛けることが多かったみたいだな。本当にあいつら仲良いよな。
「この前、ひいくんと買い物に行ったら、また恋人同士だと思われちゃったよ」
誕生日の朝、玄関で俺を見送るときに笑いながらそう言う椿を見て、物凄く腹が立ったのを覚えてるよ。
やっぱり俺はこいつ嫌いだって思ったんだ。
「知らねえよ。男女二人だからだろ」
俺は苛つきながらそう言った。
「そうだよね。あ、この服ひいくんに選んでもらったのよ。可愛いでしょう」
限界だった。頭の中で何かが切れる音がしたんだよ。
椿の平たい腹を思いきり蹴り上げてやった。あいつが苦しんでる間に台所から包丁を持ってきて、あいつの胸や腹に何度も突き刺した。何か言おうとしていたけど、そんなの俺の知ったことかよ。
冷静さが戻ってきたところで手を止めた。気付いたら玄関は血塗れだったよ。
一応、軽くシャワーを浴びて着替えたけど、出掛ける気にはなれなかったから外に出るのはやめたんだ。
柊が帰って来て、椿の死に気付いた。その内、かりんも来て愕然としていた。
「椿、死んだのか。そうだよな。俺が殺したんだし」
そう呟き、気付くと涙が零れていた。
あのへたれじゃなくて俺が泣いたんだぜ。信じらんねえよ。
そこで初めて自分の気持ちに気付いた。

僕の中に棲む悪魔 椿の話

お姉ちゃんは私を本当の妹のように可愛がってくれていたわ。そして、私も本当の姉のように慕っていたの。
お姉ちゃんとの買い物はいつだって楽しかった。服屋では色んな洋服を試着しては私に見せるの。雑貨屋では髪留めのリボンを指でつまんで髪に翳しながら子供のように「可愛い?」って言ってくる姿が愛らしかったのを今でも鮮明に覚えているわ。
ある日、お姉ちゃんにウィンドウショッピングに誘われたの。色んなお店に行って二人で楽しんだわ。
「見て見て!これ可愛いね。欲しいなあ」
ある雑貨屋でお姉ちゃんが天使の羽のネックレスを指差して女の子らしくはしゃいでた。
「可愛いね。凄く似合うと思うよ」
私も欲しいけど私には似合わないな‥‥
そんなことを思いながら言った言葉に、お姉ちゃんは嬉しそうに笑ってたわ。
その日の夜、お姉ちゃんがあのネックレスを欲しがっていたことをひいくんに教えてあげたの。誕生日プレゼントのことで悩んでいたらしく、とても喜んでくれたわ。喜んでくれてとても嬉しかったはずなのに何故か胸が痛んだのよね。
お姉ちゃんの誕生日はお姉ちゃんの家で私も一緒にお祝いする予定だった。だから、その日の朝、暫くしたら家を出るということを伝えるために電話したの。
「ところで、ひいくんは誕生日プレゼントくれるのかしら?」
「毎年貰ってるじゃない。くれることなんてわかりきってるでしょう?」
そんな会話をしている間、私の心は荒れていたわ。
だって、私は彼から誕生日プレゼントすら貰ったことなかったもの。毎年欠かさずに貰えてるお姉ちゃんがとても羨ましかった。
ひいくんはお姉ちゃんをとても大切にしていて、シスコンって言葉が本当にぴったりだったわ。たまに、入ってはいけない感情が入ってるんじゃないかと思ってしまう程に。
電話を切ってお姉ちゃんの家へ向かっていたんだけど、お姉ちゃんの家に近付いてきたところでひいくんがお姉ちゃんを呼ぶ声が聞こえたの。異様な雰囲気を察して駆け付けたら、血溜まりの中でひいくんがお姉ちゃんを抱きかかえてた。
「なにこれ‥‥」
そう呟くとひいくんがお姉ちゃんをかかえたまま振り返ったの。
その表情はいつもの優しいひいくんからは考えられない程に暗く、そしてどこか恐ろしかったわ。

僕の中に棲む悪魔 椿の話

僕と姉の椿は二人きりで外出することもよくあるような仲の良い姉弟でした。
椿の買い物に付き合っているときは店員の方から「彼氏さん」と呼ばれることが度々ありました。僕達は姉弟と思えない程に顔が似ておらず、年も一つしか変わらなかった為、恋人同士に見えたのでしょう。
椿は顔立ちもスタイルも良く、「彼氏さん」と呼ばれることに悪い気はしませんでした。彼女も悪い気はしていなかったようで、いつもただ面白そうに笑っていたのです。
「ひいくん、また彼氏って言われたね。仲良いですねって言われてるみたいで嬉しいよね
よくそう言って首を傾けながら微笑んでいました。
そんな椿は一週間前、誕生日を迎え十九歳になりました。僕はその日の朝にケーキとプレゼントを買いに行ったのです。
彼女はストロベリーアイスとチョコチップがとても好きなので、ケーキは毎年チョコチップ入りのストロベリーアイスケーキを買っていました。
「やっぱり夏はアイスよね。私の誕生日、夏で良かった」
去年、女の子らしい色のアイスケーキをフォークで刺し、口に運びながら幸せそうに言っていた椿を思い出しつつ帰宅しました。
プレゼントは彼女が前から欲しがっていた天使の羽のネックレスを買って用意しました。とても可愛らしく、彼女によく似合いそうなネックレスです。
いつ渡そう。どんな顔するかな。喜んでくれるかな。
そんなことを考えながらわくわくして家のドアを開けました。
「‥‥椿?」
玄関は血塗れでした。そして、そこには綺麗な顔を醜く歪め、お気に入りのノースリーブを血で汚した椿が倒れていたのです。
僕は訳がわからないまま、彼女を抱きかかえました。
「椿?‥‥な‥‥んだよ、これ。椿!おい、椿!」
返事なんて返ってこない。反応なんかあるはずない。
頭のどこかでそうわかっていました。あのとき、暑い気温の中で彼女の体だけが冷たく、ノースリーブやショートパンツから伸びている手足の細さからは考えられない程に重く感じていたのです。
それでも理解することを拒絶し、無我夢中で彼女の名前を呼び続けました。
いつの間にか手放していた天使の羽のネックレスは箱から飛び出し、椿の血や同じように箱から飛び出し溶けたアイスケーキで汚れ、まるで悪魔の羽の様でした。