異音

小説書いていきます。

僕の中に棲む悪魔 柊の話

俺は柊の中で生まれた。一番最初に見たものは自分に殴りかかる男だった。
自分でも不思議なことにその男が父親だってことはすぐに理解したよ。きっと柊の記憶を最初から引き継いでいたんだろうな。
あ、先に言っておくが、俺は両親が死んだときの事故には一切関わってねえからな。俺達の運が良かったか、あいつらの運が悪かったかだろ。
美咲は小学三年生のときから俺に気付いていた。原因は俺が一人でリフティングしてたのを見られた。ただそれだけだ。柊は運動神経が良くないからリフティング出来ない。それを美咲が知っていたってだけの話。間の抜けた話だろ?
それ以来、美咲には俺の存在を隠すことはしなくなった。だから、美咲と話すのは楽だったよ。最初は俺もそれなりの好意は抱いていた。でも、美咲が俺に向けてくる好意が段々とうざったく感じるようになったんだ。殺意を抱く程にな。
美咲を殺した理由はそれだけだ。
「それだけで‥‥」
そして、椿を殺したのも俺だ。
お前が言いたいことはわかってる。何も言うな。黙って話を聞いていろ。
椿はやっぱり姉だからなのか、すぐに俺に気付いた。柊とは違うと気付いた後も変わらず庇ってくれたし、愛してくれた。きっと俺も椿を愛していた。
愛していたのに何故殺したのかって顔してるな。嫉妬を殺意と勘違いしたんだ。殺してから気付いた。取り返しのつかないことをした。
自分でも後悔しているし、お前にもこいつにも悪いことをしたと思っている。ごめんな。
「‥‥謝ったってお姉ちゃんは生き返らないし、私の怒りも収まらないわ。どう償うの?自主でもするの?」
いや、自殺するつもりだ。
「それって貴方がひいくんの中から消えるってこと?それとも‥‥」
俺が一番殺したかったのはこいつだ。こいつを殺せば俺も消える。一石二鳥だろ?
「そんなの罪を重ねて勝手に消えるだけじゃない!」
‥‥いつか柊が椿に言ったんだ。「僕の中に悪魔がいる」って。俺の殺意を何かで感じたのかもしれないな。
でも、おかしいと思わねえか?その悪魔を生み出したのはこいつだぜ?
自分が辛いときにいつも俺を身代わりにして逃げていくんだ。俺の性格は歪んでいく一方だったよ。全部、人に押し付けようとしたあいつのせいだ。
悪魔はあいつの中に元々棲みついていたんだよ。



翌日、ひいくんの首吊り死体を一番最初に目にしたのは私だった。
「悪魔はあいつの中に棲みついていた」
そう言った悲しそうな彼の顔が目に焼き付いて、忘れられない。
一滴の涙が私の頬を静かに伝った。
「さようなら、柊」