異音

小説書いていきます。

僕の中に棲む悪魔 かりんの話

「‥‥誰?」
苦しそうにこっちを見ながら、掠れた声でかりんはそう言った。
その言葉で俺は我に返る。
「何言ってるの、かりん」
手の力を緩め、大嫌いなあいつの口調を真似て言った。
かりんは自分でも何を言っているのかわからないというような顔をする。
なんだよ、さっきのは咄嗟に出た言葉か。
「ごめん、苦しかったよね。かりんが嫌いな訳じゃないんだ。ただ椿に代わりはいないって思ったら頭に血が上って‥‥」
そう言って頭を撫でようと手を伸ばすと、かりんは顔を顰め、ずるずると後ろに退いた。
その表情からは嫌悪と恐怖が感じ取れる。
「近付かないで‥‥」
震えながらも、こっちを睨みつけて強い口調でそう言った。
本当に面倒な女だな。だから嫌いなんだよ。
「そうだよね‥‥。あんなことしたんだから怖がられて当然だよね」
少し傷付いた顔をしてそう呟いて見せる。
「違う」
俺の台詞を遮るようにかりんはそう叫んだ。
何が違うんだよ。意味のわからない女だな。
「そうじゃない。首締められたことだって怖かったけど‥‥。貴方はやっぱりひいくんじゃない」
何か確信を持ったような言い方だった。もう大嫌いな奴の真似は必要ないようだ。
俺は床に付いていた膝を払いながらゆっくり立ち上がりながら溜め息混じりに本音を吐く。
「確かにお前が言うように俺は柊じゃない。十年くらい、近くにいたのに今更気付くなんて、本当にお前も馬鹿だよな」
かりんはぽかんと俺を見上げている。
柊じゃないという確信が持てただけで、俺が何者なのかわからずに戸惑っている顔だ。
俺は溜め息を一つ吐いて口を開く。
「しょうがねえから、俺が何なのか教えてやるよ」