異音

小説書いていきます。

僕の中に棲む悪魔 かりんの話

私は物心ついたときから、ひいくんと一緒だった。ひいくんはいつも優しかったけど、どこか頼りなかったわ。でも、そんなとこも可愛いなって思って、気が付いたら好きになってたの。
ずっと一緒にいたくて、高校も同じ学校を選んだ。「偶然だね」なんて笑いながら嘘を吐くと「高校も楽しくなりそうだ」って微笑んでくれたの。
ひいくんの笑顔を見る度に胸がきゅんとして「幸せだなあ」って思っちゃうのよね。辛そうな顔を見るのはとても悲しいわ。
だから、そんな顔しないで‥‥。
「‥‥ひいくんが元気ないと、きっとお姉ちゃんも悲しむよ‥‥」
お姉ちゃんのことを思い出して涙が込み上げてきた。
駄目だ。私が泣いちゃいけない。
そう思って、ぐっと涙を堪えた。
でも、返事もせずにただ一点を見つめているひいくんを見ると堪えたはずの涙が一気に溢れ出てきた。
「ひいくん返事してよ‥‥」
その言葉と同時に涙が流れる。
涙は拭っても拭っても次から次へと流れ出て、すぐに泣き止むことなんて出来ない。暫くリビングに私の鼻を啜る音だけが響いていた。
そして、やっとのことで震えていた唇を動かす。
「ひいくん、お姉ちゃんがいなくなって悲しむのはわかるよ。私も一緒だよ。でも、私がいるから‥‥ひいくんは一人じゃないから‥‥」
その言葉を言い終えた瞬間、今まで微動だにしなかったひいくんの体が物凄い速さで動いて、その腕が私の首を掴んだ。どんどん手に力が入って息が出来なくなっていく。
「勝手にわかった気になってんじゃねえぞ。お前にとっての椿と俺にとっての椿は違う。それに、お前がいて何になる?」
ひいくん、怒ってるの?私じゃ駄目なの?
苦しさと悲しさでまた涙が溢れ出てくる。
涙で見えないけど、ひいくんが私を睨みつけているのがわかった。恐怖で全身の毛が逆立つような感覚を憶える。
一粒の涙が流れると少しだけひいくんの顔が見えた。
「‥‥誰?」
思わず掠れた声でそう言った。